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A Lotus Grows in the Mud

監督たちの戦術を理解し、より深くサッカー観戦を楽しむための一冊『世界のサッカー名将のイラスト戦術ガイド / 西部謙司』

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最近、西部謙司さんの『世界のサッカー名将のイラスト戦術ガイド』を読了したので、今回はこの本について紹介する。

「戦術」がサッカーを深みのあるスポーツにしている

選手の名前やプレイスタイルを事前に知っておくと、サッカー観戦が大変捗る。しかしながら、それだけではサッカーの試合を最大限に楽しめているとは言えない

選手の巧みなスーパープレイだけがサッカーの構成要素ではない。

サッカーという競技に深みをもたせているのが、戦術である。

そして、戦術を構築し、試合に対してマクロな視点でアプローチを行い、勝利を目指すのが監督の役割だ。

他のスポーツと比べると、サッカーは監督にスポットライトが当てられることが多い。これは、鳥瞰して試合をコントロールできる余地がサッカーにはあるからだ。

監督や彼らが採用する戦術を理解することで、サッカーをより楽しむことができる。

私はチャンピオンズリーグやW杯の試合を見ていて、もっと戦術について勉強したいと感じていた。選手個人を見ているだけでは、得点/失点の因果関係が理解できないからだ。

ハイクオリティな監督図鑑

導出が長くなってしまったが、そこで手にとったのがこの本である。 

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▶ 世界のサッカー名将のイラスト戦術ガイド / 西部謙司

代表的な監督45人について、イラストを交えて解説した本である。

現役の監督の戦術タイプを「トータルフットボール」「堅守速攻系」「バランス重視系」「前衛系」に分類しているのが特徴。既に引退した監督については「大御所系」としてまとめられている。

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著者である西部氏はサッカー記者として活動している。「サッカー戦術クロニクル」をはじめとして、サッカーの戦術に関する書籍を数多く世に出している。

近年は戦術本が流行っているが、数ある戦術本の中でも西部氏の本はかなり評価が高い。

今回の戦術ガイドは、各監督の経歴、サッカーに対する考え方、採用フォーメーション、戦術などがまとめられており、完成度の高い一冊となっている。

一人の監督を特集した書籍や自伝は数多く存在するが、多くの監督を網羅的に解説している書籍は他に例がなく、その点でオリジナリティがある。

本のレイアウト

それぞれの監督に対して4ページを割いて、プロフィール、性格、哲学、戦術などについて紹介している。

冒頭に名言が載っているのもおもしろい。監督のプライベートなエピソードも記されており、人柄について知ることができる。

コンパクトにまとめられているし、イラストが多く使われているので理解しやすい。

前日本代表監督であるハリルホジッチも収録されているので、彼のページを以下に引用する。

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ハリルホジッチは堅守速攻型とバランス型の中間のスタイルであり、フィジカル重視の起用を行うと評されている。

ここでは、日本代表の戦術ではなく、2014年W杯のアルジェリア代表の戦術が解説されている。

監督たちのバックグラウンドは多種多様

収録されている監督たちの経歴を眺めていると、彼らのバックグラウンドが多種多様であることが分かる。

例えば、17/18シーズンでナポリを率い王者ユベントスをギリギリまで追い詰めたサッリ監督は、銀行員をしながら下部リーグの指導者を努めていた過去がある。

ナポリで美しいサッカーを披露したサッリ監督は、今季からチェルシーの指揮を執ることになっている。プレミアリーグでどのようなサッカーを展開するのか注目だ。

W杯の分析にも役立つ

アルゼンチン代表のサンパオリ監督やドイツ代表のレーヴ監督など、W杯で惨敗を喫した監督たちの解説も載っているので、彼らの敗北理由の分析にも一役買うだろう。

W杯を勝ち取ったデシャン監督は「リアリストで守備的、そしてアグレッシブ」と表現されている。まさに優勝したフランス代表そのままのイメージであり、的確な形容だ。

フランスは98年W杯でも優勝しているが、その時のキャプテンがデシャンだった。当時の監督はエメ・ジャケであり、彼が採用していた戦術はロシアW杯のフランス代表のものと共通点が見られる。

ジャケは新しい世代を積極的に起用し、相手によってアプローチを変えられるよう戦術的な多様性を選手たちに植え付けた。守備にプライオリティを置いているのが特徴である。

今回のフランス代表も、メンバー全体が若く、特に19歳のエムバペの活躍が目立った。見ていて楽しさを感じる試合は多くなかったものの、リアクションサッカーで堅実に戦い、優勝を勝ち取った。

もしかしたら、デシャンは98年優勝時の監督であったジャケに影響を受けていたのかもしれない。

監督は理想と現実の狭間で揺れ動く

理想を語るのは大切だが、実際は持ち合わせの選手だけで実行できる戦術を採用する必要がある。この理想と現実のすり合わせが監督の頭を悩ませる。

本書では、選手が加入・放出されたために監督がどのような戦術的変更を行ったのか、それにより選手は自らのスタイルをどう変化させていったのか、など監督が行った問題解決についても焦点が当てられている。

フォーメーションやシステムには固定観念があるが、選手の個性に合わせて従来とは異なる機能をチームに持たせることも監督の役割なのである。

数少ない本書の欠点

強いて欠点を言えば、コンパクトなガイドとしてまとめているために、1人1人の情報量が少なくなってしまっているのが惜しい。1人あたり4ページしかないので、それぞれに関する深い知識までは得られない。 

まとめ

大変満足のいく一冊である。本書を読んで魅力的な監督を見つけたら、実際にその監督のチームの試合を見て理解を深めるのがよいだろう。

この本のおかげで、私は毎日楽しくサッカー観戦できている。今季のサッカー観戦のお共に、いかがでしょう⚽

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▶ 世界のサッカー名将のイラスト戦術ガイド / 西部謙司

以下の動画は、本記事の動画版です。動画の情報量が多いので、ぜひそちらも併せてご覧ください。